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大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)1726号 判決

理由

一、甲第二号証(本件手形)の記載自体から、本件手形証券上に控訴人主張通りの記載、すなわち、その主張のような手形要件の記載、受取人訴外光星グラビア印刷所代表者西山清明名義の第一裏書(白地式)、訴外坂田昇の控訴人宛の第二裏書の各記載があることが認められ、また受取人「光星グラビア印刷所」と、第一裏書人「光星グラビア印刷所代表者西山清明」とを対照すれば両者は同一であるから、右証券上の記載自体と右証券の存在により控訴人は裏書の連続せる手形の所持人と認められる。もつとも、本件手形の受取人欄には一度「近江セロフアン株式会社(被控訴人)」と記載され、これを抹消して「光星グラビア印刷所」と訂正されていることが認められるがこれは次の事情によるものであつて、右訂正は何ら右認定を妨げるものではない。すなわち、当審における控訴本人尋問の結果及び甲第一号証(受取人欄訂正前のもの)、甲第二号証(同訂正後のもの)の各記載と本件記録上明かな訴訟の経過とを総合すれば、次の事実が認められる。

本件手形は手形要件中受取人欄及び振出日付欄が白地のままで振出され、前記光星グラビア印刷所代表者西山清明名義の第一裏書、坂田昇名義の第二裏書記載あるものを控訴人において右未補充のままで取得し、控訴人はこれが所持人となつた。控訴人は更に未補充のままで取得し、控訴人はこれが所持人となつた。控訴人は更に未補充のままでこれを満期に呈示したが不渡となつたのでその主張のような(受取人欄は右第一裏書人名義)夫々右補充がなされているもの、すなわち完成手形として本件為替手形金請求のため支払命令申立に及び、仮執行宣言付支払命令を得たが、実は未補充のままであつた。そして、被控訴人より異議が出て、原審において審理中控訴人が本件手形を提出するに際し、振出日欄をその主張の日に、受取人欄を誤つて前記認定の如く被控訴人名義に各補充し、これを甲第一号証として提出し、これがため原審において敗訴したが、当審において右受取人欄を前記のとおり訂正した。以上の事実を認めることができる。

そして、白地手形は後日手形要件が補充されてはじめて完全な手形となるにとどまり、その補充があるまでは未完成な手形にすぎないが、補充された以上完成手形としての効力を有するこというまでもなく、また補充権は手形とともに転々し手形を取得した者が同時にこれをも取得する。白地手形はまだ手形ではないからその流通方法についても、直接手形法の適用をうけないが、商慣習法により完成手形と同一の方法によることが認められ(大判昭七・三・一八・集一一・三二二・最判昭三一・七・二〇・集一〇・一〇二二)、またこのようにして補充権共に白地手形を取得した所持人が、いつたん補充をしたが、誤解によつて正しくない補充をしたとき、例えば受取人白地の手形を甲の裏書を経て取得した乙が、受取人欄を甲名義(この場合特別の事情ない限り補充さるべき受取人の氏名は甲と確定する)で補充すべきところを誤つて乙名義で補充したときでも、主たる債務者に対しては三年の時効期間を経過しないかぎり、誤記を抹消して、さらに正当な受取人の氏名をもつて手形を完成せしめ得べきである(大判大一二・七・一三民集二、四八七)から、前記認定の事実関係の下において控訴人(所持人)がなした右受取人欄の補充の訂正は適法であつて、右訂正の結果本件手形は裏書の連続するものと解するを相当とする。

二、控訴人は右連続せる為替手形の所持人であるから、本件手形上の権利は控訴人に帰属するものとの推定をうける。

三、そこで被控訴人に本件手形上の債務が帰属するか否かについて考えるに、被控訴人は本件手形の引受をも否認するけれども、《証拠》を綜合すれば、本件手形の引受人名下の印影が被控訴会社の手形に使用する印章によるものなることを推認すべく、そして他に反証の何ら認むべきものがない本件において右印影は被控訴人取締役社長高木政三の意思に基き押捺されたことを認むべく、結局右引受は被控訴会社においてその代表取締役が真正にしたものと推認される。

以上認定事実から、被控訴会社は本件手形の引受人として本件手形金を控訴人に対して支払うべき義務あること明かである。

四、なお、遅延損害金の請求について考えるに、本件手形の如く受取人欄白地式にて振出された場合には後日手形要件が補充されてはじめて完全な手形となるにとどまりその補充あるまでは未完成な手形にすぎない。そして後日補充されたとしても未補充のままなされた呈示は遡つて効力を生ぜしめることはできないが、補充された後の呈示は完成手形の呈示として効力を生じるこというまでもない。そして控訴人が前記認定のとおり受取人欄を正しく補充し、その旨の主張を記載した控訴人の準備書面及び右訂正後の本件手形写(甲第二号証)を被控訴人に送達された日が昭和四一年二月二四日であることは記載上明かであるから、被控訴人はその翌二五日より右手形金完済に至るまで年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があること明かである。

五、してみれば右請求を認容した主文掲記の仮執行宣言付支払命令は相当でこれを認可すべきものとする。よつてこれと趣旨を異にする原判決は結局相当でないから民事訴訟法第三八六条によりこれを取消す。但し控訴人が当審において請求の一部を放棄した結果右支払命令における請求金額は主文第三項のとおり変更せられているから念のために附言する。(本訴は控訴人より被控訴人に対する前記認定の手形金及びこれに対する昭和四〇年三月一七日以降年六分の割合による遅延損害金を目的とする支払命令の申立によつて始まり、これを認容した主文第二項掲記の支払命令に対し同年五月二一日大阪簡易裁判所によつて仮執行の宣言が付され、これに対する被控訴人の異議申立により通常訴訟に移行したものであること記録上明かである。控訴人が当審において請求を減縮して(爾余の請求を放棄)主文第三項のとおりの手形金及び損害金の支払を求める旨述べた趣旨は、右仮執行の宣言付支払命令の認可を右限度において求めたものに外ならない。故に右請求が理由ある場合には右仮執行の宣言付支払命令の認可を宣言すべきであり、右仮執行宣言付支払命令に重ねて右金員の支払を命ずべきでない。ただ右認可をするにしても当審において請求放棄部分があるので、請求金額に変更あるを注意的に明示するために主文第二、三項のとおり判決する。)

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